パレットの事業承継と
「100年スマイル」への挑戦
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- 製造販売業
- 湖南地域
1986年に「手創りのお菓子 パレット」として大津市で創業し、1988年に有限会社を設立、2007年に株式会社に組織変更を経て、現在大津市に3店舗、草津市に2店舗を展開。
「安全安心の100年素材」「心に残るお菓子づくり」「1店舗1厨房主義」「地産地消」の考えのもと、熟練したパティシエたちが一つひとつ丁寧に仕上げる本物のスイーツを、毎日作り立てで提供しています。
Interview
取締役会長会社の価値を共有する従業員への承継で地域密着一番店を目指す
1986年に大津市で洋菓子店『パレット』を創業した前田省三会長。
大津市、草津市で5店舗を展開、従業員数約50名の企業に成長しましたが、事業承継という課題に直面したことをきっかけに、経営を見直し利益や価値観の見える化に取り組みました。そして、地域密着一番店として安定した経営を続けていくために、従業員への事業承継を進めることを決意しました。
後継者を考えるようになったきっかけ
40歳を過ぎた頃から事業承継についてボンヤリ考えるようになりました。選択肢は3つ、一緒に働いている仲間に後を任せるか、体制を維持して経営者をどこからかスカウトしてくるか、そしてM&Aでした。
いずれにしても儲かる会社でないと承継は難しいということで、経営を見直すことにして、日次採算表を取り入れて利益の見える化を図り、さらにパレットフィロソフィーを構築して価値の見える化を進めました。
従業員承継を選んだ理由
お菓子づくりに対する思いや経営に対する考え方を共有しながら、一緒に働いてきた仲間に跡をついでほしいという思いがありました。また、お客様のおかげで店が成長してきましたので、地域にメリットのある事業承継にすることが大切だと思いました。
吉田社長に白羽の矢を立てた理由
一番はお菓子づくりが好きだということなんですが、「この味の流れが美味しいね」ということを素直に理解して共感してくれる能力が高くて、例えば「そうですよね、これが後味に影響してますよね」といった会話が自然にできると製品開発がすんなりいくんです。彼女はもともとそんなに器用なほうじゃないんですが、日々努力して、持っている資質とスキルが好きと重なって、結果としてすごく成長したように思います。
承継が決まってから吉田社長の出産を経て
承継には10年はかかると思っていましたし、子どもが欲しいというのもごく当たり前の話で、それらも踏まえてパレットの経営に必要なことと考えていました。眼の前に起こるすべてのことを受け入れることも事業承継には必要だし、自分がブレると相手もブレるので、自分がきちっと覚悟を示さないとうまくいかないと思っていました。
承継へ向けて始めたこと
最初は取引のある銀行に相談へ行き、1年で事業承継を行うという提案をいただいたのですが、1年で結果の出る事業承継は方法論の話で、自分の仕事の本質であるお菓子づくりを地域でどう続けていくかを考えていくと噛み合うところがないと思い、もっと勉強して自分なりの事業承継を組み立てようと思いました。
その後センターに相談したところ、思いを一つ一つ丁寧に拾い上げてスケジュールに落とし、段階的なステップを示してくれました。銀行の話は1を100にするくらいのハードルの高さでしたが、センターの提案はスモールステップを上がっていくというものでした。途中の選択肢もたくさんあるけれど、「目指すところを見失わなければ大丈夫、ゆっくりやっていきましょう」と寄り添ってくれました。
お任せではやりたい承継はできません。自分がどうしたいのか、ボンヤリしていては伝わらないんです。ファーストステップは自分との対話、どうすれば目指すところにいけるかの自己対話が大切だと思います。
これからの吉田社長に期待すること
女性の感性をユーザー目線につなげていって、お客様のニーズをその目線で捉え、製品開発につなげると、地域密着にもっと近づいていけると思います。「あったらいいな」ではなく、この地域にとって必要な店になること、地域との密着度を上げることが今後の経営の安定につながると思っています。
Interview
代表取締役社長チームとして成長することで「100年スマイル」を実現
2024年5月に、入社21年目で代表取締役に就任した吉田香奈子社長。パレットの事業を引継ぐ決意をした後、第一子と第二子を出産、育休を経て社長に就任した現在も、時短勤務で仕事と子育てを両立しています。
「お菓子づくりが好きで、経営者になることは考えていなかった」と語る吉田社長。『100年スマイル』という長期ビジョンを掲げ、日々代表という役割と職責に向き合い続けています。
突然承継の発表があった時の心境
その1、2年前に個人面談で「次の代表をやらないか〜」というジャブ(笑)はありましたが、どこまで本気なのかというレベルでした。でも、信頼してもらっているという嬉しさはありましたし、「引き受けられたらいいのに」みたいなことはぼんやりと思いました。30周年記念のセレモニーで突然自分が次期社長になることを発表された時は、自分の中でまだはっきり覚悟が決まっていない状態で、会長がみんなの前で発表したのでびっくりしましたが、逆にそれで承継に向き合おうという気持ちになりました。
引き受けることを決意した決め手
「やります」と言える自分だったらいいなと思っていた時に読んだ本が『自分を変える習慣力』で、まず早起きを習慣にすることから始めて、早起きしてできた時間に、自分が経営者になったらどんな会社にしたいかなどをノートに書き留めるようにしました。また、「代表という役割は自分からやりたいと思ってできるものではない、やってほしいと言われて初めてなれるもの」という父の言葉に背中を押されて、心の底ではやりたいと思っていたことがわかりました。
承継を決意してから取り組んだこと
まず、異業種も含めていろいろな会社の経営者の話を聴きにいきました。また、月に1度、ビジョンミーティングと称して前田会長と、今起きてること、悩んでることや、自分の考えを話したり、会長の考え、創業からの思い、創業時の苦労話を聴いたりする時間を作りました。
同僚として働いてきたスタッフへの想い
これまで統括マネージャーや店長をやってきて、社長になってもみんなでチームとしてやっていくのは変わりないかと思います。自分が従業員としてやってきたからこそ、スタッフに寄り添えるのが私の強みではないかと思います。
"パレットフィロソフィー"の承継について
事業承継するうえでこれがあってすごく良かったと思います。これがあるからチーム全体がブレないし、立ち戻る場所が言語化され、見える化されているというのはありがたいことだと思います。前田会長がつくった今のパレットフィロソフィーを大事にしながら、何年か後には私が大事にしたいものを言語化して出せるようにしていきたいと思います。
産休、育休の間に承継への不安は
子育てしながら仕事にも真剣に向き合うということは未知だったので、家族をおざなりにしてしまうのではないかという不安はありました。以前は子どもと過ごしながら仕事のことが気になったりしましたが、今は子どもといる時は子どもが100%みたいな切り替えができるようになってきて、精一杯楽しんで過ごすことで、仕事仲間への感謝の気持ちが生まれているように思います。
事業承継の一区切りはいつ
今は会長から「これやってみるか」「これ決めてみるか」と言われながらやっている状態です。任せてもらえる範囲をひろげていって、自分で決断して責任が取れるようになり、責任の範囲を広げていくことが必要だなと思っています。会長に「任せておいて大丈夫やな」と思ってもらえた時が一区切りで、業務的にどうこういうよりそこが一番大事かなと思います。
経営者としての目標、実現したい夢
目標はパレットを100年続けて、親子孫3世代の笑顔と思い出をつなぐ店にする、「100年スマイル」を実現するということです。ここにあり続けることが一番の地域貢献で、そのためにはお客様はもちろん、スタッフ、業者さん、関わる人すべての笑顔を増やす場所にしたい、ここで働く人がそれぞれの強みや経験を活かして、やりがいを感じて成長を楽しめる会社でありたいと思っています。
パレットが100周年を迎える時、102歳になった私はまだ元気で、創業からの人気商品『その日のバナナケーキ』を作って、OBやお客様とそれを囲んで祝いたい、みんなと笑顔で集いたいというのが私の夢です。
Interview
店長吉田さんが社長になると聞いて
吉田さんが社長になると発表された時、私はまだ入社3年目だったので、あまり事の重大さをわかっていなかったのですが、まわりは結構どよめいていて、驚いている感じだった記憶があります。自分が店長という立場になった今は、みんなが驚いた気持ちもわかりますし、なぜ吉田さんが社長に選ばれたのかもわかるようになりました。前田会長と吉田社長は考え方が違うタイプなので「会社はどうなっていくんだろう」という気持ちが最初は大きくて、想像もできませんでした。
吉田社長から感じること
会長は方向性を決めたら社員に「こうします」と伝えて進める感じでしたが、社長は「どう思う?」と社員の意見を吸い上げようとしてくれるので、店長同士で意見を交わすことが増えました。自分の意見が会社に反映されているのかなと感じることができ、社員を大切にしたいという社長の想いを感じます。「チームとしてみんなで会社を良くしていきましょう」というのが伝わってきて、パートさんも含め、スタッフみんなが話しやすい雰囲気で働けていると思います。
吉田社長へエール
以前は猪突猛進と言うか、前だけ見て突っ走る!という印象でしたが、社長としての責任を担うようになって慎重さを感じるようになりました。でも元気なところは少しも変わらなくて、子育てしながら仕事もこなして、すごいパワーだなと思います。今入社して10年目で、吉田さんとも出会って10年。これからもパワフルで明るい吉田さんらしさを失わずにいてほしいなと思っています。
支援員からのメッセージ
事業で大切な要素の一つとして、表立っては見えない色々な仕組みがあると思います。パレット様は、スタッフの方々が自分たちで気づいて対処し、イキイキと活動されることを尊重する、人と人がつながっている素敵なチームだなと思いました。バトンを受けた吉田社長が夢に抱く「100年スマイル」、私たちも時には買い物客として、時には地域の一員として、一緒に笑顔でいたくなりました。センターでは、事業者様のそれぞれの思いに寄り添い、ご支援させていただきます。お気軽にご相談ください。
(滋賀県事業承継・引継ぎ支援センター 統括責任者 内海 靖)